大阪高等裁判所 昭和27年(お)2号 判決
請求人
古川高志
〔抄録〕
本件再審請求の要旨は、再審請求人は強盜殺人被告事件について当裁判所において昭和二十二年五月二十三日午後十一時頃実兄古川時夫と共謀の上加波操方に侵入し、納戸四畳の間で寝ていた同人及びその妻敏子を所携の斧で各その頭部を強打して両名を脳膜出血のため死亡せしめた上、同人等所有の衣類等を強取したとの理由で死刑の判決を受け、これに対し上告の申立をしたが昭和二十六年二月二日上告棄却せられ、右判決は確定するに至つたのである。すなわち右確定判決によると本件再審請求人自身が直接斧を振つて被害者両名を殺害したと認定せられ、その証拠として共犯者たる実兄古川時夫に対する検事の聴取書が引用されているのであるが、真実は本件請求人は単なる窃盜の目的で現場に臨んだものにすぎないのであつて、しかも、本件事件の発端誘導者は実兄時夫で、同人が直接被害者に手を下したもので、両名殺害の点は本件請求人の関知しないところである。このことは第一審判決に服罪し無期懲役囚として目下神戸刑務所に在監中の実兄時夫が判決確定後前言を飜し、殺害の主犯は自分であり、本件請求人は兄の身替りとなつたにすぎないことを卒直に告白し、その旨の葉書を請求人に寄せているのである。この卒直な告白は原判決において認めた罪より軽い罪を認めるべき明らかな証拠をあらたに発見したときに該当するから刑事訴訟法第四百三十五条第六号により再審の請求をする次第であると云うのである。
よつて案ずるに、本件再審請求人が昭和二十四年十二月二十六日当裁判所において所論強盜殺人の事実により死刑の判決を受け、更に上告の結果昭和二十六年二月二日上告棄却の判決があつて、右死刑の判決が確定したこと並に右判決は古川時夫に対する検事の聴取書を前記犯罪事実認定の証拠に供していることは強盜殺人事件記録に徴し明らかであり、本件再審記録及び当裁判所の事実の取調の結果によると、古川時夫は判決確定後、前の供述が虚偽であつたと訴訟外において告白し前言を飜していることも認められる。ところで本件再審請求の対象である強盜殺人事件は刑事訴訟法施行法第四条の適用上新法(昭和二十三年法律第一三一号刑事訴訟法を改正する法律)施行の際既に公訴が提起されていた事件であるから、本件再審請求については旧刑事訴訟法を適用すべきものと解する。そして旧刑事訴訟法第四八五条第六号後段は「原判決ニ於テ認メタル罪ニヨリ軽キ罪ヲ認ムベキ明確ナル証拠ヲ新ニ発見シタルトキ」と規定している。すなわち、本号はその適用上「新ニ発見シタル証拠」と「明確ナル証拠」の二つの重要な条件を備えていなければならない。それゆえに本件において先づ問題となるのは原判決の証拠に供せられた古川時夫の供述がその後になつて訴訟外において飜され、その供述が虚偽であつたと云う告白を「証拠ヲ新ニ発見シタル]と云い得るかの点であり、次でそれが「明確ナル証拠」に当るかの点である。ところで本号は新証拠の性質種類に関し何等制限を設けていないので、新に発見された証拠である以上は、その存在が原判決の以前から継続するものたると、将又原判決以後新に発生したものたるとを問わないものと解すべく、従つて原判決以後に同一供述者が訴訟外において前の供述を飜した告白をすれば、それは本号の「証拠ヲ新ニ発見シタル」に当るものと認められるのである。その新証拠が「明確ナル証拠」と云い得るかどうか、証拠の明確性は証拠能力のある証拠について、その証明力に関する価値判断の問題であるから、新に発見された証拠が証拠能力があるからとて、直ちに明確な証拠となるものではなく「明確」と云う以上は証拠の証明力に関する経験法則論理法則に従い何等かの客観的優位価値の存在を必要とすることは勿論で、このことはもともと再審の制度は確定した判決を打破るものであるから、それに相当するだけ強い明確な証拠を必要とすることは理解されるのであるが、本件のように同一供述者が後に訴訟外において前の供述を飜した場合は、その前後二個の供述は外部的客観的条件において差異はないから証拠価値の比較判断上にわかにその優劣強弱を判定することはできないのである。すなわち、前の供述を信用すべきか、それとも後の供述を信用すべきか、云いかえると前の供述が嘘で、後の供述が真実であるのか或は又その反対に前の供述が真実で、後の供述が嘘であるのか、これを決定すべき客観的根拠が存在しないから、所論供述者古川時夫の告白は到底「明確ナル証拠」とは認め得ないのである。本件再審請求は理由がない。